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 遠距離恋愛 




えぴそーど 2.  入って右手の彼



モントリオールに住み始めて早4年が経つ。ここには日本人の友達もたくさんいる。 その中で、ここで知り合った人と結婚している友人も数多くいる。旅行会社で働いていた時に友達になったKaedeさんは、地元カナディアンと結婚することになり、その式に呼ばれた時に彼女の友達を紹介された。美香子ちゃんという(real name:了承済)。彼女もやはりここで知り合ったフランス人とすでに結婚している。こうやって、新しい出会いとともにフランスからの息吹を少しづつ受けるようになった。旅行会社を退職した私は、とりあえず勤めていた時に、失業保険を払っていたので幸いにも受給できる資格があった。最高7ヶ月もらえることになった。ここでは、結構『怠け者』も多くこれをうまく利用しては、ほとんど働かずして保険だけを適当にもらって生活しているという人も少なくないと耳にしたこともある。


仲良しになった美香子ちゃんのフランス人の旦那さん(ジョンルック、real name:了承済)は、アニメーション関係の仕事をしていると聞いていた。ちょうど今モントリオールで(やっと)公開しているLes Triplettes de Bellevilleというアニメーション映画の製作に携わっているその道のプロである。彼が勤めているスタジオでこの作品の製作を手伝ってくれる人を募集しているとのこと。ちょうど私が9.11の影響で解雇されたというニュースを彼等に話していたので、私にも勤まりそうな仕事かもしれないということで声をかけてくれた。私はアニメーションというものには今まであまり興味を示したことがなかった。最初この話をもらった時には『私にできるのかな・・・』と思った。図工、美術の成績はいつも並。絵心は有ってもそれを上手に表現する才能は全く無い。しかしアニメーションといっても全員が絵を描くわけではなく、いろいろな仕事がある。私のように超ド素人でもできる仕事がひとつあった。『スキャン』という仕事だった。


スタジオはモントリオール発祥の地、旧市街の一角にある。かつてはセントローレンス河が目前に控えているこの地では港が栄えていた。港から積おろした品物を一時的に保管する石造りの倉庫跡が今も沢山残っている。現在ではこれらを再利用してレストラン、カフェ、ブティックホテル、アートキャラリー、コンドミニアムなどに改造してニュースポットとして見直されている。おそらく彼等のスタジオも建物の中の構造から見てかつては倉庫だったのではと予測する。


特別面接等もなく、研修をするので来て欲しいと言われた。それでも初日ということで一応『スーツ』を着ていった。夕方6時ごろスタジオに到着すると、そこは別世界だった。私から見るといわゆる『業界』の雰囲気だった。少し薄暗い照明の中、正直言い方は悪いがみんな小汚いジーンズなどのラフな格好の人が沢山いた。設計士が使うような大きな画板台と専用の照明が何台も置かれていた。そこでせっせと1コマづつ描いている人もいれば、中央のテーブルには沢山のビールが置かれていて、それを飲みながら立ち話をしている人達もいた。これまで、カナダ人だけの環境で仕事をしたことがない人間にとって、この雰囲気はとても新鮮に映った。


スーツは場違いだったようだ。でもそれが余計に『彼』の目についたのかもしれない。一番奥の部屋へ案内されると、さらに薄暗く手狭なところに、コンピューターワークをしている人達がいた。そこが、ジョンルックが働いているセクションである。確か・・・私の記憶の中でその部屋に入ってすぐ右手で仕事をしていた人に『Bonjour』と挨拶をしたと思う。返事をしてくれたかどうかももう覚えていないが、その時に『なんか私の好み系の人がいるな〜』と頭の隅で感じていた。ジョンルックもそこにいた。すぐに研修が始まる。3時間くらいかけてのジョンルックとの研修を終えいよいよ週末から仕事をすることになった。私は全く気づかなかったが、後に聞いた話で、この研修中ずっと私のことをちらちらと見ていた人がいた。それが『入って右手でコンピュータワークをしていた人』、今の彼である。


モントリオールは映画の街と言える。ハリウッド映画の撮影もここモントリオールで頻繁に行われる。私達モントリオールに住む人間にとって、撮影をしている現場に出くわすのはそう珍しくない。ヨーロッパ風の雰囲気、石造りの建物も多く残ることから、わざわざ海を隔ててヨーロッパへ撮影しに行くよりずっと費用が安く上がるのである。また大きな映画撮影スタジオもある。プロダクションも多くあると聞いている。国際映画祭も夏には行われ、日本映画も人気の外国籍映画のひとつとして毎年出品される。


映画というひとつのプロジェクトは、時間との戦いのようだ。決められた期限に限られた予算で終わらせるために、24時間体勢のシフトをこの会社は組んでいた。いろんな面々が働いていた。フランス人監督の作品ということから沢山のフランス人が本国からこの仕事のために呼ばれていた。それに加えて英語系また仏語系カナダ人(ここでは、ケベコワと呼ぶ)、深夜勤務の中国人、アフリカ系カナダ人、日本人は私だけだった。私の担当は、スキャンとXシートという仕事だった。アニメーターが描いたコマを全て、コンピュータへスキャンしていく。限りなく膨大な量であることは想像つくだろう。何しろ1コマづつ、キャラクターが動く時の『影』も全て一コマづつスキャンする。ただスキャンすればいいというわけではない。アニメーターが手がけたコマは全て専用の鉛筆で描かれている。それを同じ濃さ、線質になるように調節していきながらコンピュータへ取り込んで行く。


シフトが違うことから『入って右手の彼』のことはすっかり記憶から遠ざかっていた。12月の初めから働き始め、少し慣れたころの土曜日、会社のクリスマスパーティがあると聞かされた。当日にいきなり言われて戸惑ったがせっかく呼ばれたので、行くことになった。Plateau(プラトー)といわれる仏語系が多く住むエリアにある、モロッコ料理レストランで行われた。我々土日チームは仕事が終了した後から参加したので少し遅れた。そこには、すでに飲み始めている知らない人たち(平日シフトの面々)が沢山いた。これまた異国情緒漂う世界だった。空いていた席に座り適当に隣前の人たちと会話を交わす。唯一頼りになるジョンルックは遠くの方にいた。とてもお腹がすいていたこともあり、待ちに待ったクスクスなどの料理はとても美味しかった。


こちらのパーティというと『お開き』というものがはっきりとしていない。来た人から適当に始めて、帰りたい人は適当に帰る。間違っても『3本締め』の類の合図は存在しない。(私は個人的には3本締めは大好きである・・・)というわけで、満席だったテーブルが少しづつ空き始める。自分の周りの席もだんだん空いてきてぽつんとしてきたこともあり、もう帰ろうかなと思っていたその時に、遠くに座っていたジョンルックとその横に座っていた人が『わかめっ!』と声をかけてくれた。ジョンルックの隣の人=私の好みという何かが、すっかり反応してしまい、すぐ移動し無意識にその彼の前に座った。その時は、その人が『入って右手の彼』ということは気づかなかった。こういう雰囲気のパーティは慣れてないし、始めたばかりだったので仲間の顔となまえも一致していない頃だった。この彼と2言3言会話をした。『これが、僕達のやっている仕事なんだよ』とタバコを吸いながら誇らしげに話していたのを覚えている。私も緊張をほぐすためにしきりにタバコを吸う。気さくな人だった。そのうち、ジョンルックさんはいつのまにか消えていた。目の前に座ったため彼のいろんな部分が目に入ってくる。自動的に反応して目の前に座ったものの、そこで見たものは左手薬指に光るシルバーの指輪だった。『あ〜・・・。なんだ、だめじゃん。この人結婚してるわ・・・』とがっかりしたのを強烈に覚えている。この指輪の光線を目にした直後すぐに帰りたい気分になった。


to be episode 3...

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