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 遠距離恋愛 


えぴそーど 5.  空港 ・ ・ ・


空港、駅、バスターミナル。私の好きな場所のひとつだ。人間ウォッチングが楽しい。何処に行くのかな?何のために?出会いや別れなどのその人の人生の一部が垣間見れるような気になる。行き先が書かれた電光掲示板などを見ると、自分がそこに行かないのに何故かとてもわくわくする。


あと1週間で帰ってしまうフィリップ。家に帰ってから、ナイフとフォークを忘れたことに気づく。2、3日置いたその週末、ナイフとフォークの受取もかねてまた会うことになった。
その日は、例のバイトの日。待ち合わせは、彼も働いていたスタジオの1階ロビー。もう一人男性が一緒だった。彼の一番下の弟。彼もこれまた背の高い人だった。
近くのカフェでお茶をした後、中華街でご飯を一緒に食べる。話の中で、せっかく弟が世話焼きに来たのに、最終的に帰るフライトは別々だと言う。どうしても同じフライトがとれなかったのだそう。つまり、術後間もないフィリップは単身でフランスへ帰らなくてはいけない。
3人で地下鉄へ向かう。またここで、中途半端に別れることになるのか・・・と思いつつ、なぜか私はすでに、また別の友達と会う約束を入れていた。弟が気を使ってくれてこれから家に来ないかと誘ってくれた。二つ返事でもちろんと言いたいところだったが、約束があったのでまずはそっちから相談。友達は、私の状況を理解してくれて、じゃあまたにしようと言ってくれた。
彼の家へ着くと、弟はさっさと裸になり(こっちが照れる)、ベットに入って読書体制。部屋の片隅には、先日病室で渡したカードとお守りが飾ってあった。夜11時くらいまで結局いたが帰ることに。寒空の中、地下鉄まで送ってくれると言われたが、もし帰り道に彼ひとりで何かあっては大変だと思い、途中までで辞退した。


結局彼の引越しも手伝うことになった。帰国日の前々日のこと。
引越し当日、彼は病み上がりのため、頭がほとんど働いていない様子。弟がほとんどの仕事をする。段取りなんてものは全くなく、オーガナイズを得意としてる私からすれば、いろいろ口出しをしたかったが、ここは私が仕切る場ではないと言い聞かせて黙って手伝った。
クラシックな手口・・・、今日は本当にその手法を使った。バレンタインの時に訪問した際に、写真を一緒に撮っていた。その仕上がりがこの日の夕方6時までだった。あと30分以内に行かないと間に合わないと、彼を促した。でも引越しのことで頭がいっぱいで、写真のところまで全く気がいっていない様子。とうとう10分前になったが、あえて催促しなかった。今写真を引き取りに行ったら、もう会えるチャンスがないと思ったからだ。結局本人は6時半過ぎてようやく写真が間に合わないということに気が付いた様子だった。


引越しも終え、弟と一旦別れて、二人だけで元のアパートに戻った。空になった部屋。さすがに疲れた様子で、座り込む。隣に並んで座ると、私の膝に頭をもたれかけてきた。縫ったばかりの傷口が目に入る。そこに静かに触れてみた。傷口に触れている私の手の上に彼が手を添える。そんな時、誰かがドアをノックする。お隣の仲良しだった住人がお別れの挨拶に来た。内心『邪魔されたな』と思った。もう少し、こうしていたかったのに。


その日の夜は、命の恩人の看護婦さんのアパートに兄弟は泊まる予定になっていた。共通のフランス人の友人達を交えての食事が彼女の家であり、私も参加させてもらった。私以外は全員フランス人。ケベックでしかフランス語を習ったことが無い私、本場フランスの独特な発音と、ケベックでは使われていない単語が次々と出てきて、理解に苦しんだ。慣れない場ではあったが楽しいひとときだった。
私は、フィリップの隣にずっと座っていた.食事も終わりしばらくしてトイレに席を立ち、戻ってきたら、待ってましたとばかりその席がふさがっていた。看護婦さんがそこに陣取り、彼の手をとって脈を図っていた。これは女の勘というか・・・、『あ、彼女は彼のことが好きなんだな』と直感した。
その後2次会で外で飲むということだったが、私は遠慮した。そのころの私は、まだまだ日本人的感覚が強く、自分がいたら、他の仏人が気を使うだろう、悪いから遠慮しようと勝手に思い込んでいた。実際はそういう気遣いの神経は、彼等の御国には全く無いことを後からよーく学んだ。


結局、帰国最後の日も写真を口実に会うことになった。でも、写真よりも何よりも、空港で誰も付き添わず単身で帰ることがとても心配だった。聞くところによると、見送りも予定していた人がだめになったとかで、本当に独りで帰る様子に聞こえた。私は仕事柄、空港のことやチェックインなどに慣れているので、自分が一緒に行くことで多少は役に立つかなぐらいに考えていた。本当は、看護婦さんも見送りに行きたかったのだろう。仕事の時間も調節していた様子。でも結局彼女は、私達2人にして空港行きは辞退した。別れ際の彼女のがっかりした寂しそうな表情は、『やっぱり、フィリップのことが好きだったんだな』と私にはそう映った。
空港行きのタクシーの中、たわいもない話をしていたか、フランスにいつか遊びにいくとかそんなことを話したのだろうか、あまり会話の内容は覚えていない。舞い上がりつつある自分の精神状態を落ち着かせようと、平静を装う。と同時に、目に入ってくる景色で、空港までもう間もないことぐらいは、ガイドをやっていれば体で感じてくるもの。自分を追い込む何らかの見えない力、普段は絶対に起きない眠っている力が生じた瞬間だった。彼の手に無言で触れた。向こうもそれに答えてきた。


ドーバル空港(現在は、ピエール・エリオット・トルドー国際空港に変更 >> カナダ人にとって最も人気のある故元カナダ首相)に着くと、夜便発が集中するヨーロッパ線の客で混雑していた。とはいえ、勝手を知っている私の誘導とともに、チェックインをスムーズに終えた。出発まで1時間以上はあったので待合のエリアでお茶を飲むことになった。
ベンチに隣同士で座る。タクシーの後、どんな話からそうなったのか、もう全く覚えていない。刻々と時間がせまる中、もうこの先会えないかもしれないという脅迫めいたものと、やりきれない気持ちが入り混じってか、涙が止まらなかった。向こうは、ペーパーで手の汗をひたすらぬぐっていた。 高ぶった気持ちがお互いにぶつかりあった時だったのだろうか、そこで初めてキスをした。 そして、もうひとつ、とても混乱することをその場で告白された。


『自分には、別れた元婚約者がいる。今回フランスへ帰ったらその彼女とよりを戻す予定だったのだが・・・』


この限られた最後の時間の話題としては、最高に受け入れ難い、自分でももうどうなっているのかよくわからなくなっていた。 とにかく、その場では、連絡をし合おうということがお互い精一杯だった。 搭乗口へ向かうX線検査の前で、短かったが充実していた1週間が終わった。最後に、相手は遠くから明るく手投げキスを送りながら、搭乗口へ消えていった。


あまりにもひどく泣いていたのか、その後X線の係員の男性がティッシュをそっと差し出してくれた。


to be episode 6

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