ついに旅立ってしまった彼。先のことや約束も何も無いまま離れてしまった。空港での別れ際で起きたことは嬉しいような悲しいような、半分半分の気持ちが交互に私の胸の辺りを通り抜けていく。
彼の実家はパリからTGVで約3時間南西に向かったAngoulemeという小さな街。パリへ到着した後は、パリ在住のいとこに迎えにきてもらい、そのままその日ははいとこ宅で一時休養することになっていたようだ。
見送りをした翌日、いつものようにコンピュータの前に座る。すると1件メールが入っていた。いとこ宅のコンピュータから打っている彼からだった。まさかこんなに早く連絡をもらえるとは期待していなかったので驚いた。メールは、普通でない内容の書きぶりだった。最後の空港での出来事について、自分の体の一部をモントリオールに置いてきてしまったような気持ちであることからはじまり、機内ではこの先どうして良いか見当もつかず、心配事が募るあまりほとんど眠れなかったと綴っていた。3時間以内にはパリを離れるからすぐに連絡が欲しいとあったので、早速返事をした。向こうからまた返事が返ってくる。別れ際に言われた元婚約者について少し触れた内容に対して、今の気持ちは彼女ではなく、私への方が強いという返事だった。それが精一杯の私への言葉だったのだろう。正直な人であることは空港の時点から感じていたが、この微妙な1行に翻弄された。私にしてみればもうすでに海を隔てている自分と、同じフランスにいる婚約までしていた彼女と比べると、いくら私の方が強いと言われても、それだけの言葉に頼れるはずがない。
ふ安定な気持ちを引きづりつつ、ずっと通っているガイド学校では憶えることが沢山あり、科目ごとのテストも頻繁にあった。そんなさなか、3月初旬に1週間の春休みがあった。
ガイド学校はこの春休みが終わると5月まで長期の休みは無い。ということは、この1週間に彼に会いに行ってみようかと思った。でも迷いもあった。費用だって決して安くは無い。ある男友達のひとりにもこの相談を持ちかけていた。自分と元婚約者と比較した上で、彼は意外なことを教えてくれた。オトコは、身体を重ねているのといないのでは気持ちが違う、と。本音の部分を垣間見たような気がした。でもその男友達からの言葉に背中を押された気分になった。行くしかないと。
すでに実家に戻っている彼は、私からの突然の渡仏の連絡に驚きながらも、予定に合わせてパリへ来てくれるという。パリには、彼のお父さんの後妻がアパートを持っているので、そこに二人が滞在できるようにしてくれた。
いよいよ出発。また彼に会えるという嬉しさと常につきまとう元婚約者の存在。再会場所は、仏南西部からのTGVが到着するパリ・モンパルナス駅。列車が駅構内にまで入り込むヨーロッパの駅舎は言ってみれば『駅らしい駅』であり風情を感じる。非常に大きな駅のため、彼が乗っている列車の到着番線を駅員に何度も確認した。フィリップが乗っているはずの列車がゆっくりと駅舎内に入ってくる。列車前方、つまり駅構内に近い側で待ち合わせをしていた。手前側の車両からの客が続々と私に向かってくる。しばらくしてようやく見覚えのある姿が見えてきた。小さなボストンバックを手にし、やさしい笑顔で近づいてきた。
パリではずっと二人で過ごした。二人とも特にどこに行くという予定を立てず、街を散策をするのが好きなこともこの機会に知ることができた。出張に来ていたジョンルック&美香子夫妻にも再会し4人で日本食を食べに行き、その後セーヌ河のほとりを散歩したり、ナポレオンの墓がある寺院に行ったり・・・ロマンチックと聞くと歯が浮いてしまう性格の私だが、まさにそういうひと時だったのかもしれない。
週末を兼ねて実家から彼のお父さんと後妻がアパートを訪ねてきた。どうやら私に会ってみたかったらしい。かわいい息子がモントリオールで知り合った日本人女性に興味があったのだろう。まだフィリップのことも深く知らないうちにお父さんに会う?緊張が走った。でも実際会って見ると彼の穏やかさはこの父上ゆずりであることが会話をしていく上でよくわかり、一層フィリップとの距離が縮まった気にさせられた。
シャルル・ド・ゴール空港での別れの時がやってきた。フライトが出るぎりぎりの時間まで一緒にいた。これからどうしていくか話し合った。とにかく遠距離だが続けようという結論になり一安心。と同時に・・・彼って人は本当に隠し事ができない人なのだろう。元婚約者のことをこの滞在中初めて口にした。彼女の方が非常に彼に会いたがっているということだった。でもその時の私は、短いながらも密に過ごした時間のせいなのだろうか、意外にもこれまでのような焦りを感じなかった。
そして私がモントリオールへ戻った一週間後、彼らはパリで再会をした。
to be episode 7
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